エリクシェル・ヴェーダ プラリア8
『ひとやすみと再会』
ツェボイエムの一角。
アレスターたちは滅びた都市の使えそうな場所を掃除改装し、調査と魔物討伐のためのささやかな出張所をつくりあげていた。
もちろんスポンサーはバルセリア家。当然、詰めている者も「ナイツオブローズ」の面々が多いが、協会の出張所でもあるので部外者も自由に出入りしている。
たとえば。
「壊れたロステクって、ここで交換してもらえるんだよね」
「そう聞きましたけれど」
やってきたのはエリューシア・ヴィセイアとユエリア・ラーズだ。
「あ、ロステクの交換?シップの方に積んであるんで、ちょっと待ってて下さいね……エリューシア・ヴィセイア、フランベルジュっと」
長い黒髪の少女がぱっとやってきて、またぱっと行ってしまった。
「速……」
〈拍子抜けですねぇ〉
プチデビルのセラティスはなんだかつまらなそうな様子である。何故。
「ここまで速いと協会も案外雑って気がしますわね」
〈やっぱり最前線だからですかねぇ〉
ユエリアとペガサスのラシェルがそれぞれ感想を言い合う。
そんなことしてると。
「お〜い、ひっさしっぶり〜」
ルナリア・ブレトランサスがあっちで手を振っている。隣にはアルラウネのラヴァテラ。そして黒ずくめで帽子かぶってる青年アレスターが確保されている。
「フラム倒しに行ったんだっけ。どーだった?」
「うん、それが……逃がしちゃって」
エリューシアの言葉に、付近のアレスターの疑いの視線がいっせいにユエリアに向く。日頃の行いのたまものだろう。
それを涼しげな顔で受け流すからユエリアってば。
「あ、そうそう俺もフラムに会ったぜ。遺跡の魔石狙ってきてさあ。ガトリングシールドで追っ払ったけどな」
遭った、の間違いでは?
なぜか嬉しそうに話すルナリアのとなりで青年アレスターが怖気を振るうように身を震わせる。ルナリアにエアロブレードでひきずりまわされた恐怖をおもいだしたのだろう。
好きな人と一緒に行動したいっていう乙女心じゃん。わかってやりなよ。
「あら、今回魔石だったのですね。……あれをあげれば良かったのでしょうか」
後半聞き取りにくい小さな声だった。聞こえた?気のせいだよ。
「それにしても良い天気だよね〜」
誰かが話題を変えようとして苦しいことを言う。砂漠は雨期にならない限り晴れだよ、とはだれのつっこみだったか。
それはともかく。
皆つられて外を見る。
外はいつものように雲一つない快晴。
その青空を横切る影一つ。
こうもり羽根の、黒髪をポニーテールにしている少女だ。デビガールが一体、飛んでいる。
「あら、あれは」
ユエリアがめずらしく素っ頓狂な声をあげた。
同時に向こうも気付いたらしい。向きを変えるやいなや、一直線に飛んでくる。飛び込んできた。
〈ユエリア様〜。〉
進路上にいたエリューシアは無情にもとっさに避け、デビガールはユエリアに抱きつく。……なにやらあやしい。
〈おひさしぶりなの、ユエリア様ーっ〉
「し、知り合いなのか?」
他の人々同様、遠巻きにしていたルナリアがおそるおそるといった様子で訊ねてくる。
〈知り合いも知り合い。私は……〉
ユエリアの胸に顔をうずめていたコウモリ少女は言いかけて、はっとでかい目を見開く。そして、叫ぶ。
〈そうだ!ユエリア様っ魔物と不倫してるって本当なの!?〉
これは効いた。
どう効いたかって、みんな何もないところでこけたり手に持った物を取り落としたり食べ物をのどにつまらせたり飲み物を吹き出したりしている。
「……ありがとうございます」
おもわずユエリアが礼を言ってしまうほどだ。
「いったい、どこからそんな話が出てきたのぉ!?」
〈だって、これに書いてあったもん!!〉
差し出されたのは最新の「アレスターウォーカー」。
〈これにユエリア様がフラムってやつと恋愛してるって……〉
「思いっきり否定してあるじゃない!」
〈へっ、……あ、ほんとだ〉
どうやらまともに読んでいなかっただけのようだ。
一瞬のやりとりだったが、魔物との戦いよりも疲れた様子のエリューシアである。
それでもどうやら一息ついて、ルナリアが。
「で、どう言う知り合いなんだ?」
そこへ駆け込んできた一人の銀髪の美形少年アレスター──なぜか満身創痍である──。目の前の光景、美少女三人──ただし黙っていれば──に一瞬怯むが、それでも中から目指す相手を見つけて、叫ぶ。
「ユエリア、協会のブラックリストに載ってるんだって!?」
「可能性があるってだけだろうが!!」
こんどはルナリアがつっこみをいれる。
〈……で、どちらさまなのでしょうか?〉
ラヴァテラが冷静に、改めて問いを発した。
みんな聞きたいところだろ、こりゃ。
「ああ、すいません。オレは」
少年が自己紹介を始めようというところで、忍び寄っていたルナリアにアレスターライセンスカードを奪い取られる。
「え〜っと、『銀の風』ディーノ・ライド、ファイター。十六歳だってさ」
とうとうと読み上げる。
「おっ、貢献度S、損失度はA!」
あともうすこしでレプリカカノンが取得できようかというレベルだ。アレスターとしてはなかなかの優秀さらしい。
「こっちのパートナーはユアラーザ。特能は「ボケ・ツッコミに完全対応」……」
〈どっちもボケてどうするんですかね〉
セラティスの感想に、皆、言葉もない。
「あの、ちょっと……」
ことの成りゆきにちょっと対応が遅れているディーノ。
「俺はルナリア・ブレトランサス。よろしくな」
「はあ……」
「ボクはエリューシア……って、だから、キミは誰!?」
たった今、あらかたバラされたような。
〈だーかーらー、ディーノ様はユエリア様の噂の彼氏、なのっ!〉
ユアラーザがここでとどめの一言を発する。
今度こそ長い沈黙が降りた。
そこへフランベルジュを抱えて少女が戻ってくる。
「!?あら、あなたひどいケガじゃないですか。テルセーロかフラムにやられたんですか?」
すぐに銀杯がとりだされる。発動した魔法はリフレッシュ。そういえば立っているのが不思議なほどのケガをしていたんである。ディーノ君は。
「あ、ありがとう。これは黒死の騎士に……」
ボロ負けしたんである。そいつは別のアレスターにたおされたが。
「黒死……?それって、フィンネルベルクの話だろ」
「まさか、北の街から来たの?」
そのケガで。
「そう、エアバイクに乗って」
よく途中で力尽きなかったものである。耐久力だけは人並みはずれてあるもんだから。
〈病院の待ち合い室でコレ見て、飛んできたんだよね〉
アレスターウォーカーをぱたぱたさせるユアラーザ。念のために言っておくが、ちゃんと買ったものである。
「こんなことになってたなんて、どうして一言いってくれなかったんだよ」
ユエリアを見つめるディーノ十六歳。大切なもの、恋人。
「あなたには、あなたのやることがありますわ」
ユエリア十六歳。大切なもの、信念。
いや好きなものに恋人入ってますって。
周囲の者は皆、気まずそうに居ずまいをただしはじめる。無理もない。
いきなり現れてこれじゃあね。
で、そんな雰囲気の中ニヤニヤしてるのはルナリア。
〈一体何を想像してるんでしょう……〉
ラヴァテラがため息をつく。
こっちにはしあわせそうな表情のエリューシア。
〈エルまで……〉
セラティスが半目で頭の後ろに手を組む。
ふたりとも自分のことを考えているのは確かなようである。
いいね、みんな青春だね。
「とにかく、オレになんかできることあったら言ってくれよ。オレは君の味方なんだからさ」
「……ありがとう、ディーノ」
真摯なディーノの言葉に、儚げに微笑むユエリア。
はっ、はかなげ……。
いや、たしかにそういう表現してもばっちり似合う美少女なんだけどさ、なんかね。
「ユエリアの為なら、プリームムの決戦だって蹴れるんだからさ」
言いたいことや真心はわかるが、誰もあんなおっさんとは比べられたくなかろう。
どっかで外すディーノ。それでも微笑むユエリア。
また、なにかたくらんでるんじゃあないだろうね。
とんぼがえりのエアバイクが見えなくなると、それに合わせたかのように場の緊張がゆるむ。
ってなんじゃい。
「ディーノさん、また戻ってきたりしてね」
「ここに限らずどこもかしこも大変だっていうじゃないか。それを放ってはおかないんじゃないか、多分」
対火の四天王戦は、水に匹敵するほど楽しそうだと評されてはいるが。
〈いえ、あれは惚れていると思いますよ。よく今まで別行動とってましたよね〉
〈なんか、お人好しそうですから。たぶらかされたんじゃないですか〉
一概に否定はできない。
ユエリアはというと、エアバイクが消えていった方をずぅっと見つめていたのだった。
〈ねぇ。ディーノ様、いいの?〉
スピードを出すために魔石に戻っているユアラーザがディーノに言った。
「いいのって、何がだよ」
〈フラムって魔物のことだよ〉
「……魔物は魔物だろ」
〈でも、ユエリア様ずいぶん気にかけてるみたいなんだもん。いままで、なんにも教えてくれなかったことと、関係、あるよね〉
「あのなあ……」
言いながら、思わずエアバイクを停めるディーノ。ユアラーザの魔石をにらみつける。
〈だってだって……〉
「だってもなにも。……魔物に、しかも子供にやきもちやいてるなんて、知られてみろよ!」
それが本音か。
でもアリアに現れた魔物が人型で、名前がフラム、と知られた頃と、ユエリアと連絡がとれなくなった時期は一致するのである。
なんて、わかりやすい。
「それにもう討たれるのは時間の問題だっていうじゃないか。ユエリア一人じゃ、もうどうにもならないだろう。オレがいたってさ」
〈でもクランク様とかカナル様とかグラサンのレヴィ様とか蒼のレヴィ様とかセレスティリア様とかとはまめに連絡とってたみたいだよ、ユエリア様〉
いずれの人物が関わっている事件も、協会や他の四天王に関係する事柄ばかりだ。
「うそぉ」
パートナーが語る初めて知る事実に愕然とするディーノ。
来たほうを振り返る。遠く地平に砂漠や岩山が見える。
前を見る。後もう少し飛ばせばソドモーラだ。その先には……なつかしのフィンネルベルク。
「〜〜っ!もう、どーにでもなれっ!」
〈どうせ、ユエリア様には頭あがんないくせに……〉
ユアラーザがぼやく。
リミットブレイク。
彼が一体どっちに向かったのかは、誰も知る由がなかったとか。
1999.10.30
闇に葬ったはずのプラリア復活です(笑)。実は最終回、GA企んでみました(爆)でもいろいろあって、ディーノ君は結局なにごともなかったかのようにVDにいたし、ユエリアちゃんも個人行動だったので、ラストの行く先は…ということで、けっこう存在をひた隠しにしていたプラリアです。みせちゃったの、誰がいたっけかなあ……。
ここ載せたら意味ないじゃん(笑)。でもせっかくだからということで。
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