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エリクシェル・ヴェーダ プラリア6
『アリアの日常?』

 出合いというのは不思議なものである。
 まあ、アレスターである以上、即席チームだなんだと、それは比較的ありふれているものだけど。
 それだって何かの縁。 
 いいことには違いない。
 じゃあ、はじめようか。

 都市国家ソドモーラから歩いて二日、南に広がる大砂漠のはしっこに引っ掛かるようにして存在するオアシス。
 それが、砂漠の町アリアである。
 最近、世の中なにかと物騒になってきて、ここらでも人型魔物やら四天王やら空中都市(要塞か?)やら話題には事欠かない。
 が、いつでもどんなところでも人っていうのはなんとか生活しちゃうわけである。
 特に、アレスター。
 世が世なら、冒険者と呼ばれている連中……皆さんである。

 アリアにある食堂「ナッツ」。気のいいおかみさんに、早い安いうまいと三拍子揃っているので、もともとの住民のみならず、アリアに滞在しているアレスターたちにも人気のあるところである。
 で、さいきん、店のはしっこの目立たないところに占いコーナーができた。
 失せもの探しから悩みごと相談カウンセリングと、およそ世間一般で『占い』と呼ばれているものはなんでもこなし、地域の皆様に親しまれはじめていた。
 いちおう、布で仕切りがしてあるその場所のヌシは、翼人族の女性。
 異種族なんて、アレスターになるために世間に出てくるようなものだから、当然その女性もアレスターだろうというのがおおかたの見解だが、パートナーらしき姿も見当たらないし、コールが鳴ってアレスターが出払っている時もいたりするので、油断できない。
 何がどう油断できないのかはともかく。
 今日も今日とて、その翼人族占い師ユエリア・ラーズは店の片隅で客を待つ。

〈今日はあんまり来ませんねェ〉
 胸元につけた羽飾りの魔石から声がした。のんびりした男性の声。ユエリアのパートナー、ペガサスのラシェルだ。
「昨日のツェボイエムでの戦いのせいでしょうね」
 囁くようにして女性が答える。落ち着いた口調だが、声からするとまだ十代半ばの少女だ。フードに隠れてよく見えないが、けっこうな美少女ってかんじだ。肩のあたりまであるやわらかそうな栗色の髪が頬にかかっている。
「遺跡から戻ってない者もいるでしょうし、町の住民はアレスターのさまざまな援助にあたっていますから」
 生活面などでのことだ。
〈じゃあ今日はみんな遅出、ということですかぁ〉
「そのようです」
 ちょうどその時、店のおかみさんがやってきた。
「ユエリアちゃん、いまのうちにお昼食べとくかい」
「はい。いつもありがとうございます」
 おかみさんの言葉に笑顔でこたえつつ、はったり用のフード付きマント──室内じゃあ暑いだろ──をはずし、コーナーからでてきたところで出入り口のドアが開く。
「おや、やっとお客さんが来たね」
 おかみさんが言う。
「いやー、参った」
 なにが参ったのかわからないが、店に入るなりその黒髪の青年はしゃべりだす。アレスターのようだ。得物は、小太刀とクナイ。
「あ、おかみさん、今日の……」
 言いかけたところで、絶句。
 ユエリアと目が合っている。
 続いて入ってきた少女──雰囲気が似ているからおそらく妹だろう──もその場で立ち尽くす。
 なんであんたがこんな所に。
 目は、口ほどに物を言う。
「あ、この娘かい?三ヶ月くらい前からかね。占い師だっていうから客よせにもなるだろうと思って場所貸してるのよ」
 その場の異様な雰囲気を知ってか知らずか、青年にユエリアを紹介しはじめるおかみさん。
「ええ……」
 絞り出すような声で。
「よっく、存じてます……」
「あら、知り合いなの。よかったよ」
 よくはない。
 二人とも、昨日の戦いでユエリアがぶっ飛ばした相手──青年に至ってはさらに雷球の直撃すら受けている──である。
「もう、動けるのですか。さすがに回復が早いですわね」
 リミットブレイクしてやりゃあ良かった、てな調子でこんなこと言うのである。
「は、はは。おかげさまで……」
 こんなところで、アレスター同士のいさかいを起こすわけにはいかない。いまこの兄妹を支えているのは幼い頃から叩き込まれた一般常識と正義感だ。
 なんかなんか、かわいそう。
 
 兄妹の来店が合図になったかのように、ちらほらと客が訪れはじめる。みんな昼食目当てだが。
「今日は早めに店じまいして出かけましょうか」
 どこへだ。
 ユエリアの独り言に、会計中の兄妹──特に兄──がぴくりと反応する。手が震えている。
 出かけないほうがいいかもしれないぞ、ユエリア。
 まあ、ユエリアの行く先に彼の追っている魔物、フラムがいるかもしれないと思われてるだけかもしれんが。
 フラム君、見た目は普通の人間の子供と変わらない。で、これがまたかわいいのである。彼がフラムを追っている理由が、ほんとうにアレスターとしての正義感と義務感からくるものかどうかは、はなはだ疑問だというのが通説になっている。
 そういえばユエリア、君ってきのうはフラムと一緒に消えたんだよねぇ。確かその前も。
 どうしてたの?
 ていうかここにいていいの?
 神のみぞ知るってやつか。いつか問いただしてやろ。
 誰にって、もちろん神に。
 あ、うわさをすれば、関係者。
「うおっ」
「お兄様っ」
 店を出たところで、着陸しようとしたロステク、ヒポグリフォに潰されそうになる。
「きゃっ、ごめんなさーい」
 女の子の声が悲鳴にかぶさる。騎乗者だろう。
 この娘も昼食にきたのか。謝り倒したあと、ヒポグリフォ──クラーレ君という名前らしい──を待たせて、店に入ってくる。
「あっ、キミは……」
 またばっちりユエリアと目が合う。
 歳はユエリアと同じくらい。ゆるく巻いた銀の髪、白い肌に空の青の瞳。月の明るい晩に、砂漠にひとり歩かせれば、十人中八人が月の精霊じゃないかって思うような透き通るような美しさを持つ華奢な少女。
「たしか、エリューシア……」
「エリューシア・ヴィセイア。エルでいいよ」
 『ホワイトライトブレイド』の通り名を持つこの少女も昨日の戦いに居合わせた。
 ただし、あからさまに敵対したわけではなかった。フラムとも、ユエリアとも。
 フラムに関わったという点でおなじ……。
「ユエリアさんでしょ。フラム君は……まさか、ここにいるの!?」
〈いませんよ〉
 いきなり叫び、誰より先に自分のパートナーにつっこまれる。
 見た目とはうらはらに、かなりよさげな性格らしい。
「だって、セラティス……」
〈気持ちはわかるけど、落ち着いて下さいよ〉
 セラティスは、黒いコウモリに似た羽根とツノを持ち、オレンジがかった金髪の美少年──ただしブチデビルなので手のひらサイズ──である。エリューシアの顔の高さでホバリングしている。
「アリアにはまだ来ていませんけれど」
 なにげなくユエリアがいう。
 じゃあどこにいるか知ってるのか。
〈来てたらおもしろいんですけどね〉
 ユエリアの言葉に応じて滅多なことを言うセラティス。さては気まぐれ屋さんか。
「ほんとに来てほしい〜?」
 この場にいる誰のでもない男の子の声がしたが、いないはずの人物(?)の声なので、全員聞かなかったことにした。
「ちがうの、掛け合ってる場合じゃなくて!」
 セラティスを押さえつけ、じれたようにエリューシアが叫ぶ。
 いあわせた他の客は面白がって見物モードに──関わり合いになろうとしないといったほうが正しいか──入っている。
 おやなんだか収拾が……。
「なんだ、喧嘩か?」
 なにやら嬉しそうな声がした。
 声と同時にばたん、と音を立ててドアが開く。外から騒ぎを聞き付けてやってきた少女がひとり。
「あれ、ユエリアにエリューシアじゃないか」
 エリューシアが月の精霊だというなら、こちらは月の女神だろう。輝くような美少女だ。ポニーテールにした銀髪が弧を描いている。同じく白い肌に、森の湖のような青緑の瞳がいきいきと輝く。
 『豪傑月姫』ルナリア・ブレトランサス。
〈残念ですけど、少し違うようですよ〉
 そばに浮いていた真紅のドレスの黒髪の美少女でもアルラウネなのでやっぱり手のひらサイズ──が一瞬で状況を見て取る。ルナリアのパートナー、ラヴァテラだ。
「えーと、どちらさまでしたっけ……?」
「ほら、前にカミーラとかと一緒に遺跡に潜ったことあるだろ、覚えてないか?」
「ああ!地面崩した人……」
「ルナリア、そういうことをしているんですか」
「いやー、あっはっは」

 こうして、女性三人、不思議に出会った。

「いやさー、きのうテルセーロに壊されたコレ取りにいった帰りなんだ、いま」
 そこら辺の空いている席にどっかと座り、背中に担いでいた新品のエアロブレードを見せるルナリア。
 いや、あれを切断したのはアレスターなんだが……。
 テルセーロのせいになっている。四天王はツラいね。
〈あの時はですね、テルセーロにやられそうになったカミーラさんとロザリアさんを助けようとして、それはもうすごい勢いだったんですよ、ルナリアは〉
 ラヴァテラ、「カミーラさん」を強調。
〈しまいには壊れたエアロブレードで切りかかって、もう「必死!」というかなんというか〉
「ラヴァテラ、もういいだろ!!」
 うれしそうに話し続けるパートナーに、ルナリアは席を蹴るように立ち、真っ赤になりながらガトリングガンを構えてラヴァテラに向き直る。
 同時に、店に来ていた客のほぼ全員が座席から腰を浮かした。無理もない。
 困った顔でおかみさんがやってきた。
「あのねぇ、悪いけど話するならもうちょっと邪魔になんないところで頼むよ」
 ありゃ、いつのまにか客待ちがでているし。三人、邪魔。
「す、すいません……」
 なぜかエリューシアが代表してあやまる。残りの二人とパートナーは愛想笑いだけだ。
「じゃあ、あちらに移動しましょう」
 ユエリアが店のコーナーを指し示す。
 ぞろぞろと移動。
「あれ、ここって占いやってたんだ」
〈いままで気付かなかったですね〉
 エリューシアとセラティスが口々にいう。そういや看板の一つも出とらんが。
 さっきも言ったように布で目隠し代わりの仕切りがしてあって、水晶玉がのっかった小さなテーブルが一つに、いくつかのイス。それに絨毯が敷いてあるだけの狭い空間である。
「で、誰がやってるんだろ?」
〈いま居ないみたいですね〉
 泣いちゃうぞコラ。
「アレスターなのは間違いないみたいだな」
 ルナリアがユエリアのほうを見ながら足元を指差す。
〈あ、この絨毯……〉
 ルナリアの指のさすほうを紅い瞳で追ったラヴァテラがさすがに呆れたように乾いた笑いを浮かべる。
 ロステク、魔法の絨毯。合い言葉ひとつで浮いたりする。
「使い道がないもので」
 悪びれた様子もなくつぶやくユエリア。そういえば何につかうつもりで取得したんだか。あとはみんな魔法発動体ロステクなのに。これだけ……。
「オーブも取ったんです。これはいい明かりになりますわね」
 すみっこに置いてあった協会のマークが入った箱を持ってきて説明する。確かに光術ロステクだが。確かに説明文にもそう書いてあったが。あれは冗談であって。
 使い方違う。
「アレスターの風上にもおけない奴……」
 まだいたのか、君たち。
 さっきの兄妹、近くの席に陣取ってこっちをうかがっている。あれしきのことで気分を害して立ち去るタイプではなかったようだ。ユエリアに受けた仕打ちが仕打ちだからしょうがないが。
 厄介な。
 でもユエリアは気にしないことにしたようである。ということはルナリアも気にしない。逆に一番気にしてんのがエリューシア。心根が優しく、人を気づかうタイプなのだろう。この中では一番に。
 でもそれって苦労するぞ〜。
 閑話休題。
「え、それじゃあユエリアさんって占い師なの!?ボクはてっきり」
 てっきり何だ、エリューシア。気になるじゃん。
「いやオレも知らなかった。なんだろうとは思ってたけどさ」
 ルナリアも言い、エリューシアとうなずき合う。
「なんか不思議なコト言うし、巫女さんかなんかかな〜、とは思ったりしたけどさ」
 魔物の味方したし、じゃあ邪神の巫女か。
「占い師だって言われてみれば、なんか納得だなあ」
「ご理解いただけたところで、今後ともよろしくおねがいしますね」
 にっこり営業用スマイルをかますユエリア。
〈それならせっかくですし、なんか占ってもらったらどうですエリューシア〉
 セラティスが水晶玉に抱きつくようにして寄っかかりながら思いつきを口にする。
「あっセラティス、ダメだよイタズラしちゃあ」
 エリューシアがあせったように立ち上がる。
「いいんですわ、エル」
 横座りしてくつろいでいるユエリアが声をかける。
「ううん、ちゃんと言っておかないと」
 エリューシアが気にしてるのは、もしかしたらセラティスがユエリアに怒られてケガなどさせられるのを心配してかもしれない。
 杞憂だって。それにあの人のパートナーは『マスターの身を守る』って特能ついてたからあんなことになったんだと思うよ。今は関係ないけど。
 っておまえらイスがちゃんとあるのになに床に──まあ絨毯あるけど──座り込んでおる。
〈ルナリアもどう?恋占いとか、恋愛運とか、相性占いとか〉
 ラヴァテラもくすくす笑いをしながら勧める。何を言いたいのかは容易に想像がつく。
「ラ・ヴァ・テ・ラ!」
 つかみかかるルナリアの手をすんでのところでかわすラヴァテラ。そのまま距離を取り。
「おおっと。びっくりしたね」
 でっかいおぼんをもったおかみさんにちょっとぶつかる。
〈あややや〉
 変な悲鳴だが、大丈夫なようである。
「はい、ユエリアちゃんお昼まだだろ。そっちのお友達もね。あたしからのサービスだよ」
 おぼんの上には日替わりランチのドリアセットが。
「ええっ、い〜んですかっ」
「ありがとうございます」
「やりぃ」
 声をハモらせるな。
〈さっき食べたばかりなのに……〉
〈あれじゃないですか、「タダとデザートは入るところが違う」〉
 女性アレスターの格言。
 パートナー達がこっそりささやき合う。
 それよりも「さっき食べた」ってなんだ?ルナリア。
 ロザリアチーム「ナイツオブローズ」ではメンバーにお弁当が支給されるという未確認情報があるが、それのことを言っているのか。
「あ、これチキンドリアだ。ボクもよく作るんだ」
 はずむような声だエリューシアが言い、言ってから何かに気付いたようにはっと動きが止まる。
 みんなで見る。
 ユエリアの翼……。
「どうしよう、ユエリアさん共食い?」
 言うな。
「これは」
 翼をややひろげて見せ、ユエリアが静かに言う。
「鳥のに似ているだけですわ」
 なるほど。みんな納得した。けっこう無理矢理にだが。
 だってせっかくのお昼ごはんだし。

「だからね、アレスターになればお兄ちゃん捜せるかなって。冒険、好きだし」
 エリューシアは付け合わせのサラダをもぐもぐしながら話す。
 簡単な自己紹介のあと、話題はいつのまにか「アレスターになった理由」になっていた。
「最初はソドモーラにいたんだけどね、手がかりないし、砂漠に来たわけなの」
 ティトで救援を求めているアレスターの中に兄がいるかもしれないと思って、とちいさく付け加える。
 セラティスはそんなエリューシアの頭の上にさりげなくのっかる。彼流の元気づけ方だ。
 エリューシアの両親はすでに亡く、いわゆる天涯孤独の身の上らしい。
 健気である。
 それにひきかえ……。
「俺は……いやあ、お上品な家のしきたりとかにへきえきしてさ〜、こうすれば気にせず思う存分やれるし」
 スープをぐるぐるかきまぜながら笑うルナリア。
 なにをやるんだか。ラヴァテラがため息をつく。
「……おもしろそうだったので」
 ユエリアはもっと言葉少なである。しかもうそをついているかもしれない。
 ん?そういえばユエリアのパートナーのラシェル君はどうした。さっきから黙りっぱなしである。
 まあペガサスは店の中には入らないけどさ。縮小化の特能取ればよかったかね。
「それにしても二人ともアッパータウンの出身だったんですね。家もわりと近所なんでは?」
 そういうユエリアもソドモーラにでてきてからアッパータウンに下宿していたんである。
 多いなあ、アッパータウン。
「あ、そうかもしれないね。ブレトランサスって聞いたことあるし」
「もしかしたらガッコも同じだったとか?」
「ルナリアさんて十七でいっこ上かあ。じゃあ、実は先輩だったんだ」
 ちなみにアレスターほど年功序列のない職業はほかに類をみない。上は九十九歳から(アレスター規定に載ってるってだけの話だって?甘い)下は十二歳まで肩を並べて戦ってるんだもんな……。
「学校、ですか」
 自分で話題ふっといてついていけなくなり、寂しげにちょっと眉根を寄せているユエリア。なんだかなあ。
 そんなとりとめもない談笑をさえぎるように、突然店中に響き渡るコール。アレスター出動要請だ。
 ちなみに訪れている客の半数以上がアレスターなので、コール音うるさいったらありゃしない。
 協会に改善を求めたい。
 アレスターが次々に席を立ち、支払いを済ませたりツケを頼んだりしているなかで、この一角だけはみょーに静かである。
 誰のカードもなってない、というか。
「占いの仕事の邪魔になるので、寝泊まりしている部屋においてきてあるんです」
「あ、外のクラーレ君に持たせてる荷物のなかだ」
「あーっと、さっき寄った協会支部に忘れてきた」
 ひとりずつナイスなコメントである。
「おまえらちょっと待てー!!」
 思わず叫ぶ黒髪青年。
 だーいじょうぶ、三人のパートナー、みんな索敵機能はそこそこあるから。魔物の居場所くらいすぐにわかるって。
 そういう問題じゃない?
「ほら、それよりもフラムが来たかもしれないですわよ」
 やわらかな微笑みを浮かべつつのユエリアの言葉に、出入り口に一歩踏み出しかける青年。
「ふえっ、フラム!?」
 ついでにエリューシアも膝立ちに──でもスプーンくわえたまんま──なったりしたが。
〈違うという確信があるみたいですね〉
「フラムかー。そういえば見たこともないなあ。どんな奴なんだろ」
 動かないユエリアを見てのんきに構えているルナリアとラヴァテラを見て座りなおす。
 だ、誰も動かねぇ。
「ああっ、知らないぞもう!!」
 とうとう駆け出していく青年。そのあとをロステクの篭手を装着しつつ妹が追う。
「ふふ、勝ちましたわね」
 誰と何を戦っていた、ユエリア。
〈あー、あれ、リフトブレイサーですよね。フラム撃ち抜いたヤツ〉
 少女の篭手を物珍しげに見ていたセラティスがつぶやく。
「たしか貢献度と損失度がAないととれないんだよな、あれ」
 現場を見ていたわけではないルナリアが最新のロステクカタログの内容を思い出して言った。
「そういえばユエリアさん、フラム君の味方したんだから、貢献度と損失度、すごいことになってない?」
 エリューシアの言葉にユエリアは首をかしげる。
「特に変動はありませんわ、いまのところ……そう、言われてみれば」
 胸元の魔石を見つつ答える。連絡不行き届きか?
「あ、もしかして……あれも、モニターに協力したってことになるのかな」
 エリューシアがあははと笑いながら言う。セラティスはその肩で無理矢理笑みを作っている。
 フラムにダメージを与えたリフトブレイサーの光線は、もとはユエリアの風術ヴォルテックスを反射させたものである。
「なるんでしょうか」
 ユエリア、不本意きわまりないといった表情。
「なるんじゃないか」
 明るく笑うルナリア。
「なるほど、事実ではなく、結果がすべてと」
〈合理的じゃないですか〉
「そのようですわね」
 寄ってきたラヴァテラを両手でそっと包み込み、ユエリアは微笑んだ。
「……わあっ、やっぱりロザリアさんを呼んできたほうがいいんじゃないですかぁ?」
 店の外から、銃声と声が聞こえてくる。
「あっ、カミーラだ!!」
 がばと立ち上がるルナリア。
「じゃあ、またなっ、ユエリア、エリューシアっ」
 ガトリングガンを準備するのももどかしく、一目散に駆けてゆく。……ドア蹴り破るなよ。
〈では、ごきげんよう……ルナリア、待って〜〉
 ラヴァテラが優雅に挨拶しつつルナリアを追う。
「きゃっ、そういえばロステク全部外じゃないっ」
 あっけにとられてルナリアを見送っていたエリューシアが叫ぶ。
〈わあ、たいへんですよっ〉
 クラーレ君とフランベルジュか?確かに魔物に盗ってくれといわんばかりだわ。この状況。
「おいとまするねっユエリアさん。セラティス、行くよっ!」
〈はい、また今度ーっ〉
 銀の髪をなびかせ、くるりと身をひるがえして走り去る。

〈だれも居なくなっちゃいましたねぇ……〉
 魔石のまま、ラシェルがぽつりとつぶやいた。
「そうですわね……ふふっ」
 さようなら、とは誰も言わなかったのは作意か偶然か。
 ユエリアはのびをひとつすると、あとかたづけをはじめる。

 そして、それぞれの道へ。

 不思議な再会を、待って……。

1999.10.5
 前回、前々回と暗かったので、「楽しそうなヤツを」と書いたのがこれ。題して、『VCにお友達ができたぞ記念プラリア』(笑)。 先にルナリアさんのPLさんからプラリアを頂いていたので。わ〜い。PC同士はすでに知り合ってます。エリューシアさんだけは(ほぼ)初対面ってことでなれそめ(爆)話です。で、9回に間に合ったんですか、我々のプラリアは(笑)。

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