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エリクシェル・ヴェーダ プラリア7
『戦いの後で』

 ツェボイエム都市遺跡内。
 その場所にはなぜか壁に大穴があいていた。そこから砂漠の砂混じりの熱い風が吹き込んできている。
 壁の際には、いくつかの影があった。
「フラム君、行っちゃったね……」
 美しい銀の髪を風になぶらせながら穴から身を乗り出して外を見ていた少女がつぶやく。
 彼女はアレスター。『ホワイトライトブレイド』エリューシア・ヴィセイア。
〈もう影も形もありませんね〉
 エリューシアのパートナー、プチデビルのセラティスは折れたフランベルジュをつつきまわしていたのだが、飽きたのか外をのぞくフリをしてヒポグリフォのクラーレ君の頭に乗っかる。ついでに、少し離れた場所にいる翼人族アレスターに意味ありげな視線を送った。
 『素敵に無敵』ユエリア・ラーズはそれを気にするでもなく、ペガサスのラシェルの脇に座り込んでいる。9レベル魔術を何度も使って、さすがに疲れたのだろう。
「ユエリアさん、もういちど訊くけど……何でフラム君を逃がしたの」
 いつのまにかユエリアのそばまで来ていたエリューシアがそう言った。
〈きっと、会ったらほだされちゃったんですよ〉
「ねえ、どうなの」
 セラティスの台詞を黙殺して、重ねて訊く。
 しかしエリューシアの口調に逃がしたことを咎める響きはない。むしろ何かを期待しているような。
 希望と、失望と、安堵が入り交じった表情。
 フラムを仕留め損なったというのに、なんでそんな顔をしているのかとユエリアは思った。そして、気付く。
 多分、自分も同じ表情をしている。
 おたがいの表情を、おたがいに映しあっている、
「……わたしは、フラムを倒しに来たのですわ」
「うん。わかってる。ボクもそうだよ」
 見つめあったまま、沈黙だけが流れる。
「あのね、ボク、一瞬だけだけどフラム君を守ろうって思ったんだ……これ以上壊されないために」
「……わたしもですわ、エル」
「でも、このままここにいたって、他のアレスターに殺されちゃうだけだもん。だから、これ以上苦しまないようにって」
 実際は、ダメージを食らう度に感情が、心が消えていくのだ。無い心では、その痛痒を感じることすらないだろう。
 苦しいのは、自分達の胸だ。痛むのは、彼女らの心だ。
 まるで消えてゆく彼のこころの代わりのように。
「コアと」ユエリアが話しだす。
「コアと、EV細胞があれば、魔物をつくることは可能だと聞いたのですわ。だから、試してみようかと思ったのです。他のアレスターの目から逃れ、もう一度やりなおせないかと」
 それは危険な賭けだった。
「でも、今回は駄目でしたわね。生きていてほしかった。逃げおおせられるのならば、それでいいと」
「うん、そうだよね。それができれば、どんなにいいだろうね」
〈エル!〉
「だって、そうじゃない!」
 エリューシアが叫ぶ。
「心があって、話だってできて、笑ったり怒ったり。ちょっと考え方が違うだけで、ボク達とおんなじなんだよ!」
「でもその少しの違いが、決定的な違いなのですわ」
「ユエリアさん!?」
「ひとと同じかたちをした、ひとの天敵。これほど恐ろしい存在はありませんわ……わたしたちは少数派です」
「天敵って……でも同じヴァスティタスの」
「ところが。ソドモーラで採られた魔王の体細胞は、超極小サイズの機械の集まりだったそうですわ。彼らは外の世界からの来訪者なのです」
「なんでそういうことを知ってるの」
 おもわずつぶやくエリューシア。
「占い師の情報網を甘く見てはいけませんわ」
 なんでもないことのように答えるユエリア。
 意外と知り合いや友人は多いのである。……ここでは孤立無援だが。
〈そこまで知ってて、なんで味方するんでしょうね〉
 呆れを通り越して、感嘆するセラティス。
「うーん、わかるような、わからないような」
 首をひねるエリューシア。
 彼女達がフラムに対して抱いている想いは、恋愛感情などではない。二人にそれぞれ先約がいるということだけではなく。
 そういったものを越えた、人としての愛情、なのだろう。
 それをフラムがどう思うかはわからないのだが……。
「それに、フラムは自分がどこから来たのか知りませんわ。本当に、子供、なのです」
 それに明確な答えはない。だが、彼が自分で自分の生き方を決める前に滅ぼさせはしない。
「風の道。時に寄り添い、時に響き合い。おおいなる流れをつくりだす。孤独な風は、消えるだけ。でも……」
「希望がほしいよね。望むように幸せになれるように」
 ふと、気付いたように。
「ねえ、ユエリアさんの占いで、どんな未来が見えたの?」
 ユエリアは微笑む。「いえ……何も」
「えっ?」
「占いは道しるべ。わたしは導く者。……自分の道に足跡をつけることはできても、その先にじぶんで標を示すことはできませんわ」
「そっか……」
〈そろそろみんなのところに戻りましょう。決着をつけないといけないですからね〉
 セラティスが頃合を見て二人をうながす。
「ふふ。とりあえずの決着を、ね」
〈うわ〜、やっぱりなんか企んでませんか〉
「セラティス、もうやめなさいってぇ」
 しょうがないといったふうにパートナーとじゃれあいはじめたエリューシアが、ユエリアのほうを向く。まっすぐに。
「ユエリアさん、これが終わったら、皆で会おうよ。いつになるかはわからないけど、彼氏とかも連れてきて」
 ここでちょっと赤くなる。
「一緒に戦った人、対立しちゃった人……みんなで。こんなこともあったねって。話し合おう、そうしようよ!」
 ユエリアにはエリューシアの言いたいことが痛いほどわかった。言葉は足りない。けれど伝わってくるものがある。
 微笑んで。「ええ、約束しますわ。いつか」
 思った。いつかとは、いつだろうと。
 けれど、すくなくとも忘れない。
 嬉しいこと哀しいこと、ここであったことすべて。
 胸に抱いて、今日を生き、明日を夢見る。

1999.10.27
 例によってアクションをまとめるためのプラリアです。9回が来てから速攻で書いて、まずはエリューシアさんのPLさんへ。そしてアクションと同時期にマスターへ送りました。
 既成事実のできあがりです(核爆)。
……根回しイェーイ(死)じゃなくて。でも本当に良い言葉ですね(笑)。
 巻き込んで、ゴメンなさいエリューシアさん……。でも、最終回だったし!!

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