エリクシェル・ヴェーダ プラリア1
『ディーノとユエリア』
街路樹の緑が風にざわめき、落ちかけた太陽が建ち並ぶ白亜の家々を茜に染める。
街のあちこちで起こっている魔物騒ぎも、とりあえずここまでは届いていない。
オレは、ディーノ・ライドはそんな光景をなんとはなしに見ながら、一人家路を急ぐ。ここはヴァスティタス最大の都市ソドモーラ。オレの生まれ育った街だ。
アッパータウン、つまり高級住宅街の一角にある、中の上くらいの見なれた青い屋根の屋敷。ここがオレの家。はじめて「彼女」を連れて来た時には笑われたっけ。
「ぷーっ」
……せめて「くすくす」くらいにして欲しかった。笑われた理由はというと。
「だって家も住んでるひとも青尽くしで……」また吹きだす。
その時のオレは、青い上着に青手袋。おまけに瞳の色は青だったりする。青、好きなんだけどなあ。
まあ、それはおいといて。家に着いたし。
「ただいま」
応えはない。うちは代々アレスターで、当然父さんも母さんもそう。各地を飛び回っていて、めったに我が家に帰ってこない。人がいないのに使用人も要らないといって(オレがいるのに)、そんなわけでたまに掃除の人が来るのみ。まあでもそんなオレが明るくまっすぐに育ったのは、生まれつきの性格が良かったからだろう。
テーブルの上にいくつかの冊子を置く。さっきアレスター協会からもらってきたアレスターの申し込み案内の資料だ。遅ればせながら、オレもアレスターになるのだ。
「これが、アレスターの案内書ですか?」
「うわあぁっ」
全く気配を感じさせずに一人の少女がそこにいた。いったい、いつから。
「さっきからいましたわ」
案内書を手に取りしれっとした表情でそれを読みはじめる少女。といっても同い年の十六歳なんだけど。
ユエリア・ラーズ。オレのカノジョ、なのだ。神秘的な銀の瞳に、肩まであるやわらかい茶色の髪。そして、背中にある一対の大きな翼。ほかの翼人族達みたいに完全な純白じゃないけど、光が当たれば黄金色の美しい色合いに染まる。腰には、何か丸いものが入ったポーチがくくりつけられている。彼女の商売道具、占いに使う水晶が入っているのだ。
ユエリアはソドモーラの生まれではない。辺境の「隠れ里」から最近出て来たらしい。らしいっていうのは、彼女がそのことをあまり話してくれないからなんだ。
あ、なんか思い出してきた。二人の初めての出会いは……。
生っ粋のアッパータウン育ちであまり遠くへ出歩いたことのなかったオレは、いっとき街中探検にハマって毎日のようにダウンタウンとかに出向いたものだった。そこではいろいろな人と知り合い、それはいい勉強にもなった。
そこをみつけたのはいつだったか。密集した家屋の、その隙間に垂れ下がっている布に、「占い有りマス」の看板。ある日意を決して、怖いもの見たさだか面白半分で入ってみた。
「こんにちわーす」
「はい、いらっしゃいませ。何を占いますか?」
床(というか地面)に並べられたローソクの灯りを台の上の水晶球が照り返している。夢見るような銀の瞳と、優しげな顔だちの美少女がその場所の主人だった。そしてその背にひろがる(せまいスペースなりに)翼。翼人族だ。
「?どうかしましたか」
物珍しげなオレの視線に気付いているのかいないのか、彼女が言った。
「い、いえ、あの、適当にお願いします」
「わかりました。お名前は」
「ディーノ・ライド」
そして彼女は目の前の水晶にむかって念をこらしはじめた。
と、彼女ははっと目を見開きつぶやいた。
「危険が……」
言うや否や、水晶を抱え、羽根をひろげて天井を跳ね上げ(何せ板一枚)飛び立っていってしまった。
……おーい……?
しかしほぼ同時に聞こえた、悲鳴混じりの怒号。外は大騒ぎ。魔物が出たんだ!!かなりの数がいる。
すっかり囲まれて、逃げ遅れた人が右往左往。近くにアレスターはいなかったようだ。エディファイ・ベノムにやられるのも時間の問題だ。これはやばいかも。
突破口は無いかと見回してみる。あれ、十メートルほど先の民家の屋根にさっきの占いの彼女がいて手招きしている。
あそこまでたどり着ければ。
オレはそばで呆然と突っ立っているおじさんに向き直った。
「死んでくれぇぇぇっ」
どげしとばかりに魔物に向かって思いきり蹴り飛ばす。時間稼ぎその一。
ダッシュして、屋根に飛び乗る。でもその間におじさんをクリアした魔物がどんどん接近してくる。と、占いの彼女は向こう側から何かを引っ張りあげている。時間稼ぎその二か。
「ちょっと待てえ!!」
「え……」
泣き叫ぶ幼い子供を魔物に向かって今にも投げ落とそうとしていた彼女は、びっくりしたように動作を止める。
「子供になんてことするんだっっ」
助かろうと、必死で屋根によじ登ってくるどっかの誰かを蹴落としながらオレは怒鳴った。元来子供好きなのか、オレには子供に対する義務感みたいなのがある。
「ごめんなさい……」
案外素直にあやまる彼女。おお、太陽の下であらためて見てもとっても可愛い。
そんなこんなのうちにアレスター達が到着し、オレが得意の歌を歌って子供をなだめてやっている間に魔物を倒し、ついでに家並みも破壊して、あたりは静かになった。
「わたしの家が……」
「住んでたのか」
ほとんど燃えてしまっていた中から(出火原因は魔物でもアレスターでもなくあのローソクだろう)「占い有りマス」の看板を拾いあげながらおもわずツッコむ。定員二人のスペースに?
見やると、彼女はつぶやいたっきりぼけっと立っている。おもいっきり途方に暮れているようだ。憂いを帯びた銀の瞳。
う……。
「うち、部屋余ってるよ。君、良かったら来ない?」
えっ、ていうような顔でこっちを見た彼女。ふわりとひろがる笑み。
「わたし、ユエリア・ラーズといいます」
ふと、思いついたことを口にする。
「あの時さあ」
「はい?」
「はじめて会った時。魔物が来るの、やっぱり占いで「見えた」の?」
「ああ、あの時ですね」
微笑むユエリア。
「戸口の隙間から外の風景が水晶に映り込んだんです」
聞かなきゃよかった。
「占いなんてそんなものです」
はったりが命ってことかな。
ユエリアの占いの腕前についてオレはいまいちよくわからない。でもあの後占いで稼いでちゃんと自分の仕事場建てたんだよな。
ユエリアはあいかわらず熱心に案内書を読んでいる。オレ、まだそれ読んでないんですけど。それに。
「ユエリア……翼人やらの種族はアレスターになれないんだよ?」
ユエリアはちらりとこちらを見て「ふっ」と笑う。なんだよ。
「ディーノに似合うパートナーはやっぱり可愛い女の子タイプで、…デビガールなんてどうです?」
人の話を聞いてない。
オレは今、北のフィンネルベルクにいる。何でソドモーラを離れてここにいるのかって、ちょっとドライブに誘われて勢いで来てしまったのだ。いろいろ事件も起こっているし、しばらくは居座ることになりそうだ。
いまオレの側にはパートナーのデビガール、ユアラーザがいる。名前はもちろん「ユエリア・ラーズ」の略だ。どういうわけかユエリアと仲がよくて、オレに近付く女の子がいたり、オレが女の子に近付いたりすると二人してさわいだっけ。
そして今日。気になる噂を聞いた。異種族、つまり翼人その他の種族のアレスター採用が正式に決まったという。
そして、オレは知っている。ユエリアがずいぶん前からエリクサー協会地上部に通いつめて、パートナーやらロステクのサンプルやらの前にずっとはりついていたことを。まるで下見のように。
やっぱり、女の子は謎ってことなのか?
1999.2.25
交流者さんが書かれたプラリアを見て、「私も書こう」と書いた記念すべきプラリアです。性格など設定に忠実にしてあります。そう、「2PC目はディーノ君の彼女にしよう」て決めてたんですねえ(笑)。
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