ELIXIR VEDA0プラリア0
『それはいつかはじまって』
女の子はいつものように大好きなお兄さんと二人でお留守番をしていました。
「おやおや、これはまたお軽い世界だね」
声に振り向くと、そこにはお兄さんとおなじくらいの歳の、金の髪の男の人が立っていました。首飾りについている、瞳の宝石がとても印象的で。
「あなぼこだらけで、吹けばとんでしまいそうだ。こんなのがいいの?」
お気に入りの本、物語にそんなことを言われて、女の子は少しむっとしました。
「いいじゃない。あなたがどう思っていようと、私はこの世界が好き」
本をぎゅっと抱き締めて、女の子は言います。
もっと小さかったころはお母さんに読んでもらっていました。薄くて、破れかけて、古びた絵本です。
それでも、女の子にとってはいとしいものでした。
「ここに扉があるよ」
女の子やそのお兄さんの明るい金髪とは違って、血を含ませたような赤い金の髪のひとは、指で示しました。
「この扉のむこうには、こことは違う別の世界がある。行ってみたいと思わない?」
女の子は本を抱き締めたまま、首を横に振りました。
でも、女の子のお兄さんは扉を開けてしまったのです。
「さようなら」
これだけ言って、お兄さんは行ってしまいました。
「あなたは、だあれ?」
「ナキだよ、ラティ」
彼は、女の子のお兄さんと同じ扉の向こうに消えていきました。
扉の向こうに見えたのは、満天の星空と、双子のお月様。
扉が閉まって、時計が動き出しました。
もうすぐ、お父さんとお母さんの帰って来る時間です。
さぁ、明かりをつけて、二人を出迎えてあげましょう。
そう、女の子は忘れてしまっていたのです。自分にお兄さんがいたことを。
女の子はなんにも知らずに絵本をテーブルの上に置いて、お父さんとお母さんのところへいきました。
……本の名は、『エリクシェル・ヴェーダ』といいました。
それは、遠い昔の夢。
……女の子の両親は、突然いなくなってしまった息子と、
娘が彼の事を忘れてしまったことをとてもとても嘆きました。
再び彼の名を忘れることがないように。
そして、その願いどおりに女の子は二度とその名を忘れることはなかったのです。
「その人のこと、大好きだったのよ……聞いてる?ラージュ」
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