ソルアトスの姫君プラリア
『シンエーのちょっと昔語り』

 また、お仲間が現れたようだぜ、セーラルード。
 オレはかたわらの相棒を見やった。いや、もう「元相棒」かな。
 なんせ、見事に干涸びちまってるから。
 オレはもう一度新参者の方を見た。二人いるようだ。
 暗闇の中に浮かび上がる一対の白い翼。ハーフヴァルキリーだ。
 こいつらも、ここの噂を聞きつけてやってきて、返り討ちに遭ったってクチだな。
 お、動いた。まだ、生きてやがる。
「フィリス……フィリス……しっかりして……」
 長い銀の髪のが、そばに転がってる小柄なほうに何度も呼びかけるが、それもむなしくピクリとも動かない。小柄なのの濃い金色の髪が、黒く染まっている。もっと明るいところで見れば、それが鮮やかな血の赤だと分かるだろう。
「……だめよ……こんなところで……一緒にヴァルキリーになるの……お願い」
 こいつも、長くないな。

 しばらく聞こえていた声は唐突に途絶えて、それきりだった。
 あーぁ、今回もか。
 オレは諦めて寝ることにした。

 ふと目覚めると、目の前に人影があって驚いた。なんだ、また新しいお仲間か?
 いや、さっきのハーフヴァルキリーの片方だ。小柄なヤツ。気絶してただけか。
 ともかく、地べたに座り込んで、途方にくれたようにしている。
 これは……ついに訪れたチャンスってやつか?ここからおさらばできるのか。
 と、とにかく意志の疎通をはからんことには。……おい、そこのおまえ、お前だよ……だめだ、聞いてやがらねぇ。ぼーっとしたままだ。
 そういえば、こいつの名前はなんだったかな。えー……。
 そうだ、おい、フィリス!
 よしっ、こっち向いた。ん?……向いただけだな。しかも、えらく無感動な瞳をしてないか。
 まさか、動く死体として蘇ったんじゃないだろうな。いや、ありうるかも。
 なんて言ってる間に接近されていた。こっちに手をのばしてくる。
 近くで見ると、えらくガキだ。ま、ハーフヴァルキリーの年齢なんかよくわからんが、十四くらいに思えた。白っぽいローブにマント。僧侶か、魔法使いか……。
 白い小さな手が、オレに触れる。
 よぉ、初めまして。オレは……。おや、なんか変だな。
 悪ィな、ちょっと心を探らせてもらうぜ。

 ……これは、記憶喪失って奴か?

 ……ここまでが出会いだ。さぁ、寝れ。
「ええー。もっと聞きたいよぉ」
 あほ。こっから先の苦労話は徹夜したって語り尽くせねぇよ。なにせ、おまえはホントーに何もかも忘れてやがったんだからな。
「そうだねぇ」
 ……この身で頭ん中赤ん坊に戻っちまったハーフヴァルキリー抱えて、ここまでこぎつけたオレに対してその相づちか。はーん。
 ま、いいか。思うがままに教育する楽しみはあったしな。
「あはははは」
 前向きなのが取り柄なだけの好奇心の塊甘えん坊女に育ったのは決してオレのせいじゃない。オレはちゃんとまっとうなハーフヴァルキリーとしての心得を説いた。こんなになったのは、こいつ自信のせいだ。
 ……ちょっと甘やかし過ぎたきらいもあるかもしれんが。
 しかし、あれから何年経ったかな。こいつの見た目がちっとも成長しないんで、実感ないが。
「フィリスが数えはじめてから三年だよぉ」
 もう十年か。
 さあ、もうマジで寝ないと、明日中に海に着けねぇぞ。
「うん、わかったぁ。おやすみなさい」

 相棒のフィリス・セーラルードが寝息を立てはじめたのを確認して、このオレ、インテリジェンスソードのシンエーも、しばしの休息についた。

2002.4.18

 1999年の六月七日と日付けのついているワープロ打ち感熱紙を打ち直したものです。
 プラリアかきはじめた頃の文章ですー。こんなの書いてたのね……。
 というわけでずーっと眠っていたとあるエピソードのお披露目です。