剣の花嫁 BRID OF BLADE プライベートリアクション
ラストプラリア
アクヱリアス島のバンバ神殿では日毎筋肉兄貴達の響宴が繰り広げられていた。
オカマ神バンバ率いるバンバ教は今現在世界で最もアツい宗教であるが、果たして世界宗教になれるかどうかはアヤシイものである。
それはともかく。
バンバ地下神殿の通路を一匹の猫がとてとてと歩いていた。薄緑色の毛足の長い猫だ。
行き交う兄貴達は(たまに姉貴もいるが)気にも留めない。そして猫は奥まったところにある部屋の前で足を止める。
ものものしく兄貴の見張りが立つその部屋の扉には「新規信者様」と張り紙がしてあった。
「ここですかね」
猫は呟くと、おもむろに人間形をとった。女性だ。豊かな薄緑の髪、知的な金の瞳に猫耳ふさふさ尻尾。
「む、ミケネス族か!?」
見張りの兄貴は油断なく構え(ポーズ)をとる。ミケネスの女性エルエス・ステイルは身に纏っていた布をひろげてみせた。目標を魅了する神具、傾城天衣だ。
「むぅ、これしき」しかし燃える兄貴に効果は無かった。
「あれ、手強いですね。……仕方ありません」
エルエスが次に手に取ったのは望輪具暴流だ。ごろりと転がすと、それはどんどん大きくスピードを増しながら兄貴に向かっていく。
「は、笑止…ぬ、うおぉぉぉ」
兄貴はボールと共にどこかへ行ってしまった。
「これでよし、と」
エルエスはほっとひと息つく。
「何……?なんかあったの……?」
固く閉ざされた扉の向こうから少女の声がする。当たりだ。エルエスは満足そうな笑みを浮かべた。
「エアリィ?迎えに来ましたよ」
すると即座に男性の声が返ってきた。
「その声、エルエスさんか!?」
「あれ、旦那様もいたんですか?」
部屋の中には一組の、白い翼持つオルニス族の男女がいた。
「エルエスさん遅い……一週間経ったよ……」
緋色の髪を後ろで束ねた青年の名はアリークという。
「兄様、助けに来てもらって文句言わないのっ」
赤い瞳が印象的な可憐な少女はエアリィ。
二人はつい一週間前、天下一運動会の表彰式会場からバンバ教の信者によって連れ去られて行方不明になっていたイーオスローズ兄妹(新婚)だった。
宝秤剣をめぐる争いのさなか一時ヴァートパパ状態に陥っていたエアリィは連日のパラパラダンス修行によるヴァートの消耗のおかげかすっかりスライム状態から回復していた。
「でも良かった、エアリィ。これで家に帰れるぞ」
「うん、兄様、パパとママにエアリィと兄様の幸せな姿を見せてあげようね☆」
抱き合って喜ぶ兄妹。そういえばこの兄妹という関係が一部で物議をかもしたが?
「あ、俺達血ぃつながってないし」それでいいのか、アリーク?
「そうそう。それにエアリィ、兄様のコト兄様だって思ってなかったもん。小ちゃい頃からずーっっと兄様のお嫁さんになるって決めてたんだから!」
本気で実行に移した妹の発言はもっと危なかった。
「はぁ……」
まだまだ恋愛沙汰にうといエルエスはこう答えるしかなかった。ふと、自分に魔法を教えてくれた師匠のことを思い出す。自分は彼を捜しに旅に出たハズだが……。
「で、これからどうします?一度家に帰られるんですか?」
「うん、そうなるな……」
遠い故郷に思いを馳せる兄妹に、エルエスはクロライナのオルニス自治領が壊滅したことは言わないでおこうと思った。
「うふふふふ、パパとママ、びっくりするだろうね」そりゃ驚くだろう。
「ああ、そうだなエアリィ、これからも頑張って世界を狙おうな!!」いかように世界を狙うのかは謎である。
部屋の空気がピンクに染まるかのようなこの状況にもエルエスは持ち前の冷静さを欠くことはなかった。
「ねぇねぇ、もう帰ろうよ。兄様、エルエス」
エアリィが言った。
「じゃ、長居もなんですから、そろそろここからおさらばするとしますか」
次の瞬間もエルエスは冷静だった。
「あ。ドア、外からカギがかかってるみたいですね」
『……は!?』
くくくくく……。
扉の向こうから響いてくる(複数の)兄貴の声を聞いて、アリークがぽつりと呟いた。
「終わらねぇじゃん」
そう、冒険はこれからなのだ。
2000.12.2.あり
|